始めはちょいと風邪を引いたんでございましょうがねえ甘木さんが薬でも下さると、よかったかも知れないよ一体あの甘木さんが悪うございますよ、あんまり三毛を馬鹿にし過ぎまさあねそう人様の事を悪く云うものではない。 少々辟易して内心困った事になったなと思っていると、再び例の神さんの大声が聞える。 主人は禅坊主が大燈国師の遺誡を読むような声を出して読み始める。 御師匠さんだわ。 　ちょっと読者に断っておきたいが、元来人間が何ぞというと猫々と、事もなげに軽侮の口調をもって吾輩を評価する癖があるははなはだよくない。 白君の説明によるとあの苦しみが今少し続くと死ぬのであるそうだ。 ええ面倒だと両足を一度に使う。 倒れかかるたびに後足で調子をとらなくてはならぬから、一つ所にいる訳にも行かんので、台所中あちら、こちらと飛んで廻る。 主人は羨ましそうな顔をする。 第二読本と主人は落ちつきはらって答える。 見ると今日は前歯が一枚欠けている。 帰り道にもその事ばかりが頭の中にあって苦しくてたまらない。 猫だって笑わないとは限らない。 御気分さえ御悪くなければ……気分は悪いですよと僕がいう。